レオ・レオニ『フレデリック』と急性胃腸炎

急性胃腸炎になった。
起き上がるのもしんどい、食べるのもしんどい、眠るのもしんどい、しんどい。仕方がないので古いビデオテープを引っ張り出してベッドで横になりながら見る。

ビデオテープなんて久しぶり過ぎて、童心に帰ってしまった。
幼稚園のころは園から帰るとビデオばかり飽きずに繰り返し見ていた。

世界絵本箱
『レオ・レオニ 5つのお話』
 フレデリック―ちょっとかわったのねずみのはなし

フレデリック―ちょっとかわったのねずみのはなし


『フレデリック』
ー冬に備えて、食べ物集めに一生懸命のノネズミたち。その中で、フレデリックだけは別でした。彼は何をしているのでしょう?

このビデオで一番お気に入りだった話。
子供の頃は、石垣の隙間で越冬するノネズミたちが貯めておいたトウモロコシやムギを食べるシーンが大好きだった。
食べものをかじる感覚や、石垣の質感、お日様のあたたかさ、花の赤い色、そんなものを楽しんでいた。
そして、隠れ家に自分の好物だけをたんまり貯めて、外は寒いけれど自分は安全なところでぬくぬくしているというシチュエーションが大好きだった。冬眠ごっこといっては自分のシェルターをこしらえていた。
残念ながら"冬眠ごっこ"は、今でも春夏秋冬継続し、アウトドア派になるという私の2013年の目標は叶えられそうにない。しょうがないよね、もう冬になっちゃうし!

『フレデリック』に戻るが、ストーリーは
越冬の準備で大忙しのノネズミたちの中でフレデリックは花を片手にじっとしている。ノネズミが「何をしてるの?」と尋ねると「おひさまの光を集めているのさ」「花の色を集めているのさ」「ことばを集めているのさ」と答える。ノネズミたちは呆れ顔。
冬が来て、最初はいっぱいあった食べ物は、段々減ってくる。飢えと寒さにノネズミたちは震えている。
フレデリックはいつものようにじっとしている。「何をしてるの?」とノネズミたちが尋ねると、フレデリックは春と夏と秋の間に集めておいたお日さまのこと、花の色のこと、雨や夜や月や季節のことについてのステキな詩を彼らに分け与えてあげた。ノネズミ達はみんなステキな気持ちになった。


大人になってみるとメッセージがあまりにはっきりしていて驚いてしまった。
豊かさがなくなる冬、寒くて飢えていても、心に楽しい思い出をしまっておいて、そっと広げてみればステキな気持ちになれるよ。というメッセージ。
なぜ子供の私には伝わっていなかったのか…!(愕然)
まあ子供ってそういうものなのでしょうが、同じ題材を右脳と左脳別々に見た感じでとても新鮮な体験だった。

人間に置き換えると戦争や災害で辛いとき、ステキな思い出や美しいものが人びとを救ってくれるという話にもとれた。
さっき調べてレオ・レオニはユダヤ人だと知った。本人はアメリカに亡命したということしかしらないが、ノネズミ達はアンネ・フランクのように、隠れ暮らしていた人びとのことなのかもしれない。

このメッセージ、今の世で生きるわたしはどのように受け止めるべきなのか。
とにかく生きていくために必要なトウモロコシ(衣食住やお金や学歴や職やスキル)は一生懸命ストックしておかないと社会的に死んでしまう。
ではお日さまや花の色、ステキなことばは、私にとってなんなのだろう。
素晴らしい本を読んで得た価値観や色々な人の話を聞いて得たこの世の知識、美しいものを見て得た心の中の景色だろうか。Twitterで拾ったほんわか面白ばなしだろうか。口ずさむことができる歌だろうか。
3年目のiPhoneSafariのようによく落ちる頭の容量ではうまく言えないので、偉人のことばを借りてお茶を濁してみる。

「肝心なのは感動すること、愛すること、希望を持つこと、打ち震えること、生きること。」
ーロダン

ロダンについてはよく知らない。よく使う図書館にこの格言が彫ってあるのだ。(恥ずかしい!)

さて、私は感動しているだろうか、打ち震えているだろうか。

最近はよく打ち震えている。胃腸炎のせいで。
トイレの中で打ち震えていたとき、頭がぐるぐるとまわり色んなことが脈絡なく思い出された。愛犬のツヤツヤして柔らかくてあたたかい体をなでる感触を思い出す。少し楽になる。
こんな風にステキな気持ちを思い出すのを、自分だけじゃなく周りのノネズミ達にも分けてあげるフレデリックはステキだなあと思った。

しかし、わたしはノネズミ気質。一生懸命食べ物を集めている中フレデリックみたいにボーッとしてる奴がいたらムカッとしてしまう俗物だ。世の中フレデリックだらけじゃみんな食べ物なくて死んでしまうし、ノネズミたちだってエライ!すごいエライ!しかもフレデリックの話を聞いてあたたかくなれるようなステキな感受性も持ち合わせてる。スゴイ!


とりあえずわたしは胃腸炎という大義名分のもと、冬眠ごっこにいそしむノネズミとして、布団の中で打ち震えているしかない。
あー焼肉食べたい。